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「李朝喫茶」の愉しみ

「李朝喫茶」と名付けた喫茶店は、日本ではおそらく当店だけではないかと思います。店主は、かつて東京にあった「茶房李白」のような空間を京都でも作りたい、との想いから当店の開業を志しました。単なる喫茶店ではなく、自身のルーツである韓国の文化を感じられるサロンとすべく、古くから多くの人に親しまれてきた「李朝」という言葉をその名に冠することにしました。

 「李朝」とは朝鮮王朝時代、正しくは朝鮮時代(1392-1910年)を指します。また日本で呼び親しまれている「李朝」は、朝鮮時代に作られた工芸品や絵画を意味しています。李青の店内に飾られる工芸品や家具調度品、建具は「李朝」が多くを占め、一歩足を踏み入れると外の空気とは異なる、独特の雰囲気に包まれます。しかし、よく見ますと店内にあるのは「李朝」ばかりではありません。入り口付近の壁には、地元・出町柳の伝統ある味噌屋さんから譲り受けた味噌樽の板が貼られていますし、客席周辺には東南アジアの木製扉や中国で作られた格子戸などもあります。そしてテーブルや椅子は「茶房李白」から譲り受けた松本民芸家具、照明も大正・昭和初期のアンティークが含まれていて、毎日居ても飽きることはありません。

 当店に来られるお客様はおひとりの方が多く、静かに喫茶や軽食を楽しまれています。当店の雰囲気を皆さまが共有されていることを、私たちはとても嬉しく思っています。地元の常連様も多く、京都以外のお客様もわざわざ足を運んでくださいます。「美味しかったです」「また来ます」というお言葉以外にも、礼状やSNSでメッセージをくださる方もいて、その度に心が温かくなります。特に何もおっしゃらない方でも、度々来てくださっていることが本当にありがたいです。

 近頃は海外からの旅行客も増え、言葉の壁を越えて当店の想いが伝わっているかと思うと、喫茶店という空間が何か特別なものに感じられてなりません。

ここ3年ほど、足しげく通ってくださったお客様に、ドイツから京都へ仕事で来られていた若いご夫妻がいらっしゃいました。「ハイ!」と挨拶して入店され、いつも決まって「サラダ」(当店のカルビサラダ)を注文されました。コロナ禍でまだ来客数の少ない時期からの馴染みのお顔を見る度、ホッとする気持ちがありました。そのうち、2人目の可愛い男の子が産まれ、小さな赤ちゃんの世話を交互に見ながら「サラダ」を召し上がっていました。そして、ドイツに戻られる前には愛情あふれるお手紙とご家族の幸せ笑顔の写真までいただき、私たちの心が洗われました。

 小さな喫茶店ですが、来られる皆さまにとって良い時間となるよう、これからも心地の良い空間を目指してまいります。